【1537】 ○ ハーベイ・ハート 「刑事コロンボ(第28話)/祝砲の挽歌」 (74年/米) (1976/01 NHK) ★★★★ (○ パトリック・マクグーハン 「刑事コロンボ(第34話)/仮面の男」 (75年/米) (1977/09 NHK) ★★★★)

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パトリック・マクグーハンが犯人を演じた2作。「早朝でなければ」という点が似ている。

刑事コロンボ/祝砲の挽歌 vhs1.jpg刑事コロンボ/祝砲の挽歌 vhs2.jpg  刑事コロンボ/仮面の男vhs1.jpg刑事コロンボ/仮面の男vhs2.jpg
特選「刑事コロンボ」完全版~祝砲の挽歌~【日本語吹替版】 [VHS]」パトリック・マクグーハン「特選 刑事コロンボ 完全版「仮面の男」【日本語吹替版】 [VHS]」パトリック・マクグーハン

刑事コロンボ/祝砲の挽歌 1.jpg 私立ヘインズ陸軍幼年学校の校長ラムフォード大佐(パトリック・マクグーハン)は、創立記念日の早朝、校庭にある大砲の砲弾に強力な火薬を仕込み、砲筒の中に大砲清掃用のボロ布を押し込む。記念日の式典に創立者の孫で学校の理事長でもあるヘインズ(トム・シムコックス)も来校し、経営が思わしくないこの陸軍学校を閉鎖して男女共学の短大にするという以前からの意向を具体化する話をするが、軍人気質のラムフォードには元より許容しかねる話で、彼はヘインズを誘導して式典の祝砲を彼に撃たせ、祝砲は暴発しヘインズは死ぬ―。

祝砲の挽歌5.jpg 第28話「祝砲の挽歌」は、コロンボ・シリーズで最も多い4度の犯人役をやったパトリック・マクグーハン(1928-2009)の初登場作品で、彼はこの作品の演技でエミー賞を獲っています(この人は、ドン・シーゲル監督、クリント・イーストウッド主演の「アルカトラズからの脱出」('79年)でも、アルカトラズ刑務所の憎たらしい所長役を好演した)。

祝砲の挽歌40.jpg マクグーハン演じるのは、冷静で知性と自信に溢れ、専門知識に秀でた犯人で、コロンボも相当に苦心惨憺しますが、学生達が密造していたリンゴ酒が「起床ラッパまで部屋の窓辺に吊るしてあった」のを砲台の付近から見てしまったのが犯人の命取りに。一生懸命に(まるで自らの犯した犯行を忘れ去ろうとするかのように)密造酒造りの犯人探しをしたのはいいけれど、結局、「早朝」その時間にその場所にいたことを自ら証明することになってしまいました。

刑事コロンボ/祝砲の挽歌1.jpg この犯人は、ある面、自分の思想信念に基づく「確信犯」であり、彼の「士官学校を守らねば」という信念は、学校の経営難という現実の前では、一層のこと古びて見えるのが悲しく見えます。

 ラストでコロンボは、彼が犯行を認めた直後も、引き続き学生達に最後の指揮をするのを見守っている―このエンディング(パトリック・マクグーハンは名演)が、物証はボロ布のみで、後は状況証拠の積み重ねに過ぎないとも言えるこの作品の評価を、一気に押し上げているように思います。

「プリズナーNo.6」.jpg パトリック・マクグーハンは、英国で製作、1967年9月から1968年2月にかけて放映された連続テレビドラマ「プリズナーNo.6」に主演しており(製作総指揮も兼ねている)、日本では「刑事コロンボ」が始まる前に1969年3月から6月にかけてNHK総合で放映されているため、「刑事コロンボ」に出てきたときすでに馴染みのあった視聴者も多かったのではないでしょうか。「プリズナーNo.6」は、英国の諜報部員である主人公がある日、上司に辞表を叩きつけ辞職するの「プリズナーNo.6」2.jpgも、何者かによって催眠ガスで眠らされ、眼を覚ますと自分が「村」と呼ばれる国籍不明の場所にいて、「村」には彼の他にも多くの者が「プリズナー(囚人)」として拉致されてきており、それぞれ自分の正体を隠したまま番号で呼ばれており、「No.6」という番号を与えられた主人公は「No.2」と呼ばれる「村」のリーダーから「知っている情報」を尋ねられるが、彼は頑なに回答を拒否し、脱走しようとすると泡状の物体によって捕獲されてしまい、毎回「村」からの脱走を試みる―というもの。ジャンルとしてはSF的なスパイものですが、今でも一部に根強いファンがいるようです。


刑事コロンボ 仮面の男 1.jpgIDENTITY CRISIS columbo title.jpg パトリック・マクグーハンの2度目の登場は、第34話「仮面の男」(IDENTITY CRISIS)で、この作品では監督もしています(パトリック・マクグーハンはその後、第37話「さらば提督」('77年)、第52話「完全犯罪の誤算」('95年)、第67話「復讐を抱いて眠れ」('99年)、第68話「奪われた旋律」('00年)も監督し、「完全犯罪の誤算」「復讐を抱いて眠れ」では犯人役として出演もしている)。

刑事コロンボ/仮面の男1.jpg 経営コンサルタントのブレナー(パトリック・マクグーハン)の正体はCIAのエージェントであり、彼の元にかつての同僚ヘンダーソン(レスリー・ニールセン)が現れるが、二重スパイを働いた過去をヘンダーソンに握られていたブレナーは、物盗りの犯行に見せかけてヘンダーソン殺害する―。

刑事コロンボ 仮面の男2.jpgレスリー・ニールセン.jpg 言わばスパイ・ストリーが絡んでおり(パトリック・マクグーハンはジェームズ・ボンド役の候補に挙がったこともある)、殺されるのがレスリー・ニールセン(1926-2010)というのも豪華だし、コロンボの捜査にCIAの圧力がかかるというのも珍しい設定ですが、知的で自信に満ちた犯人像というのが「祝砲の挽歌」と似ています(マクグーハンが演じるとみんなそうなる)。

Vito Scotti IDENTITY CRISIS.png 被害者殺害時刻の夜には、クライアントである食品商社社長のデフォンテ(ヴィト・スコッティ)のためにスピーチのテープ録りをしていたというのが犯人の主張で、それを裏付けるような証拠もテープは拾っていますが、これはあくまで犯人が仕込んだもの―コロンボの明察はその上を行きます。(因みに、「食品商社社長」役のヴィト・スコッティは、第19話「別れのワイン」('73年)の「レストランの支配人」、第20話「野望の果て」('73年)の「テーラーの主人」、第24話「白鳥の歌」('74年)の「葬儀社の営業マン」、第27話「逆転の構図」('74年)の「酔っ払いの浮浪者」に続く5度目の登場。この人、見ているだけで楽しい)。
ANY OLD PORT IN A STORM1.jpg Vito Scotti makes an appearance as a fussy tailor in Candidate for Crime.jpg 白鳥の歌02.jpg VitoScotti2.jpg
「別れのワイン」('73年)/「野望の果て」('73年)/「白鳥の歌」('74年)/「逆転の構図」('74年)

仮面の男20.jpg 当日の「夜」では知ることが出来ない(「早朝」でなければ知り得ない)"情報"がそこに織り込まれていなかったか。「早朝」でなければ―というのが鍵になる点でも、「祝砲の挽歌」と似ています。その"情報"(ニュース)とは―。

 今は考えにくいけれども、中国は当時ずっとオリンピック不参加で、1976年のオリンピックのモントリオール大会では参加が噂されたものの結局これも不参加、次の'80年のレークプラシッド冬季大会から参加しています。そのオリンピック"不参加"表明のニュースが流れたタイミングが、犯人の"逆アリバイ"に結び付くという、このシリーズでは珍しい時事ネタ的なオチです(この作品の米国での放映は'75年11月)。
レスリー・ニールセン/パトリック・マクグーハン

 ラストのコロンボの「ある日、ポーカーとマージャンが賭をし、初めはポーカーが優勢だったが...」という犯人に向けての"謎かけ"は、元々は「今日、中国人の気が変わりゲームをやることに...」という、「態度を二転三転させる中国」に「旗幟不鮮明な二重スパイ」を懸けた"皮肉"だったようで、NHKの独自の訳し方は、数年前に国交回復したばかりだった中国への政治的配慮だったのか。

 被害者が最後に行った店にコロンボが聞き込みに行った際に、ベリーダンサーの踊りに目を細めるといったシーンもあります。'09年に亡くなったパトリック・マクグーハン、'10年に亡くなったレスリー・ニールセンに続いて、遂にピーター・フォーク(1927- 2011年6月23日)までが亡くなったのが寂しいかぎりです。
 
刑事コロンボ/祝砲の挽歌0.jpg刑事コロンボ/祝砲の挽歌 2.jpg「刑事コロンボ(第28話)/祝砲の挽歌」●原題:BY DAWN'S EARLY LIGHT●制作年:1974年●制作国:アメリカ●監督:ハーベイ・ハート●製作:エヴァレット・チェンバース●脚本:ハワード・バーク●音楽:バーナード・セイガル●時間:98分●出演:ピーター・フォーク/パトリック・マクグーハン/バー・デベニング/マデリーン・ソントン・シャーウッド/トム・シムコックス/マーク・ホイーラー/シドニー・アーマス/ブルース・カービー/ロバート・クロットワー●日本公開:1976/01●放送:NHK(評価:★★★★)

「プリズナーNo.6」The Prisoner(ATV (ITV) 1967.09~68.02)○日本での放映チャネル:NHK総合(1969.03~06)

IDENTITY CRISIS columbo 2.jpg刑事コロンボ/仮面の男2.bmp「刑事コロンボ(第34話)/仮面の男」●原題:IDENTITY CRISIS●制作年:1975年●制作国:アメリカ●監督:パトリック・マクグーハン●製作:エヴァレット・チェンバース●脚本:ウィリアム・ドリスキル●音楽:バーナード・セイガル●時間:98分●出演:ピーター・フォーク/パトリック・マクグーハン/レスリー・ニールセン/オーティス・ヤング/デイビッド・ホワイト/バル・アベリー/ブルース・カービー/ビトー・スコッティ/バーバラ・ローズ/カーメン・アルゼンチアノ/ウィリアム・ミムス/クリフ・カーネル/アンジェラ・メイ/マイク・ラリー/エドワード・バック●日本公開:1977/09●放送:NHK(評価:★★★★)

パトリック・マクグーハン(刑務所長) in「アルカトラズからの脱出」('79年/米)
アルカトラズからの脱出 パトリック・マクグーハン1.jpg アルカトラズからの脱出 パトリック・マクグーハン2.jpg

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